我ここに立つ3-トマス・モアのユートピア

1516年、現代でも言葉が残る書が出版された、「ユートピア」である。著者のトマス・モアは、この着想をエラスムスの「痴愚神礼讃」が発表された11年にはもっていたとされるが、彼は自由なエラスムスと違い、イングランド国家官僚であり、発表するのはかなり躊躇したという。

しかしそれでも発表したのは、エラスムスと同様、贅沢になって堕落した社会への憤りのようだ。モアは、ヴェスプッチの「新世界」にも触発され、新世界も引用しながら「どこにもない国」のことを夢物語として描いたが、想定しているのはプラトンの「国家」に書かれた理想政治である。

後にマルクスが「資本論」で取り上げる有名な「羊が人間を食い殺している」という「囲い込み」による農民の土地取り上げは第一部で触れられ、モアが怒っていることがわかる。モアはこれに対して土地共有、共産制度を描くのである。。

モアはこの書で、貴族や特権聖職を否定、各層から国の指導者を選出し、国のために働く500人ほどの学者、聖職者、官僚は想定している。また宗教の自由や死刑の廃止、一日6時間労働。思想だけではなく、法律官僚として理想を具体化した。ユートピアは今日に至っても影響を及ぼしているが、この書で離婚をOKしたことは微妙な影響をモアに与えた。

下左はユートピア下右は囲い込みで村を出る村人

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キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民

キリスト教なしに西洋史は読めないというほど深く痕跡を残しています。そういうキリスト教を念頭に置きながら、西洋史を読んでいこうと思います。もちろん批判的観点もおおいにアリ。 ローマ時代コンスタンティヌスから始まる長い物語、お楽しみいただければ幸いです。