1511年、パリで出た一冊の本が世間を騒がした。著者はデシリウス・エラスムス、後に「人文主義者の王」と言われる名声を築く。彼は1466年ロッテルダム生まれ。貧しかった彼は修道院に入り、ここでラテン語古典文献に出会った。その後パリ大学に入学し、99年イングランドへ渡る。
イギリスでは、ロジャー・ベーコン以来の実証主義とイタリアの影響で独自の人文主義が育っていた。この地で彼はトマス・モアと友情を育み、王子時代のヘンリー8世と知己となった。この後宗教改革の荒波で3人とも別々の人生をたどる。
1506年、エラスムスは念願のイタリア留学を果たすが、そのイタリアはユリウス2世が剣をふるい、ヴァチカンが贅沢におぼれた自分の理想とは遠い姿だった。このイタリア時代に出版した「格言集」は、彼の名声をヨーロッパ的なものにした。そして1509年からのイングランド時代に書かれたのが「痴愚神礼賛」である。
この書は当時の大ベストセラーとなった。内容たるや、最初は古典を引用しながら当時の風俗を面白く風刺するのだが、後半になるや戦争にあけくれる王公、権威をふりかざす聖職者、そして金で地位を買い、それを武力で守る教皇を痛烈に批判する。この書はトマス・モアに捧げられ、モアはそのとき「ユートピア」の発想を得ていた。ルターも影響を受け、エラスムスは宗教改革の狼煙を我知らずあげたのである。
下は「痴愚神礼賛」の挿絵(左)ホルバイン作著作に励むエラスムス
キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民
キリスト教なしに西洋史は読めないというほど深く痕跡を残しています。そういうキリスト教を念頭に置きながら、西洋史を読んでいこうと思います。もちろん批判的観点もおおいにアリ。 ローマ時代コンスタンティヌスから始まる長い物語、お楽しみいただければ幸いです。
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