キシュラが明らかにしたジャンヌ・ダルクは、まさに民衆であり、共和派としてうってつけのシンボルだった。王と教会に裏切られ、フランスのために生きた少女。彼女を導いた「声」などは無視された。ところがカトリックが逆襲に出た。オルレアンを中心にカトリックの聖女にする運動が起こったのだ。
急進主義左翼は反発したが、中間派は和解のシンボルだと感じた。その代表が、公教育・宗教・芸術担当大臣であった歴史家のアンリ・ワロンで、1860年、彼は列聖調査の資料である本格的な伝記を出版して公表を博した。
このチャンスを逃さなかった女性が居た、当時自分の興業会社を設立して独立した、あの有名女優サラ・ベルナールである。彼女は40代後半で若くはなかったが、1890年動きの少ない裁判シーンを演じて、大当たりをとって、ジャンヌを民衆の聖女としてしまったのである。
ジャンヌはそれから国民統合のシンボルとなってベルエポックの絶頂を迎えた。アナトール・フランスは「ジャンヌの中で我らは和解する」と述べている。その後、第一次世界大戦の中で、ジャンヌは国民の戦いのシンボルとなり、大戦が終わった1920年カトリックが聖女として列聖する。
下はサラ・ベルナール演じる「ジャンヌ・ダルク」のポスター
キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民
キリスト教なしに西洋史は読めないというほど深く痕跡を残しています。そういうキリスト教を念頭に置きながら、西洋史を読んでいこうと思います。もちろん批判的観点もおおいにアリ。 ローマ時代コンスタンティヌスから始まる長い物語、お楽しみいただければ幸いです。
0コメント