現代芸術24-「ヴォツェック」と戦争

ラヴェルならずと第一次世界大戦に出征した音楽家は多い、皆祖国のためと勇んだのだ、しかし実際の戦場のリアルはかけ離れていた。若きヒンデミットもその一人で激戦地に送られた。その体験を「ぞっとするような瞬間。血、蜂の巣になった身体、脳みそ、引き裂かれた馬の骨、粉々になった骨」と書いている。

いかにもヒンデミットらしい感情を入れない表現といえるだろう。ヒンデミットは軍楽隊で演奏するが、パリに軍が迫ったときドビュッシーの曲を演奏中に彼の死が知らされたそうだ。その時に彼は音楽というものは単に個人感情の表現ではないと感じたそうである。

軍隊体験をオペラにしたのがアルバン・ベルクのオペラ「ヴォツェック」である。主人公のヴォツェックは真面目なキリスト教信者の一兵卒だが、医者の臨床実験に協力して小銭を稼いでいる。その言ってることはチンプンカンプン。子供を儲けた内縁の妻は金欲しさに鼓手長の誘惑に負けてしまう。

混乱したヴォツェックは黙示録的な考えを抱き、罰として妻を殺害し、自分も恐怖から池で溺れてしまう。何もわからず言うがままになった貧民の悲劇である。ベルクは12音音楽を駆使し、庶民の日常の音楽にならない会話をオペラにしてしまう。ベルクは上演するつもりでつくったのではないが、戦後の混乱期の状況がこれを20世紀を代表するオペラにしてしまう。

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キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民

キリスト教なしに西洋史は読めないというほど深く痕跡を残しています。そういうキリスト教を念頭に置きながら、西洋史を読んでいこうと思います。もちろん批判的観点もおおいにアリ。 ローマ時代コンスタンティヌスから始まる長い物語、お楽しみいただければ幸いです。