現代芸術2-マティス「生きる喜び」

新しい絵画を模索していたピカソに強烈なショックを与えた絵画がある。1906年に描かれたアンリ・マティスの「生きる喜び」である。マティスらは05年に強烈な色彩を使った絵画を発表し、批評家から「まるで野獣の檻の中に居るようだ」と「フォーヴィズム(野獣派)」という名前をいただいていた。

この構図は16世紀のカラッチやフラマンの「黄金時代の愛」から借りている。しかし新しいのは官能を刺激するその原色的色彩、そして空間を無視したような構図である。近代に飽き、人間の原初を求める動向は、アンリ・ルソーが素朴で原色的な熱帯幻想絵画を描き、クリムトも性的な絵画を描く。

文学ではマラルメも「牧神の午後」を書いたが、ジッドはアフリカに旅行して生の喜びを知り「背徳者」と「地の糧」を書く。フロイトも性衝動が人間の根源だと考える。神の死んだ世界で、近代の末期に、エデンの園やアルカディアのような原初の理想郷を求めるようになっていたのだ。

マティスの「生きる喜び」は、色も形も写実に捕らわれない世界を開いたが、構図としては伝統的である。この絵を見たピカソにはインスピレーションがあったのかもしれない。今までの絵を捨て、さらに大胆な現代絵画の幕開けとなる絵画を発表するのである。

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キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民

キリスト教なしに西洋史は読めないというほど深く痕跡を残しています。そういうキリスト教を念頭に置きながら、西洋史を読んでいこうと思います。もちろん批判的観点もおおいにアリ。 ローマ時代コンスタンティヌスから始まる長い物語、お楽しみいただければ幸いです。