第5回十字軍9-フランチェスコとスルタン

フランチェスコがダミエッタに着いたのは、十字軍が包囲し、イスラムと交渉が始まっている微妙な時期である。教皇代理ペラーヨ枢機卿はよく思わなかったろうが、とりあえず教皇のご推薦なので放っておくしかない。彼は軍をあまりよく思わなかったようだ。が、いつものようにあちこちで説教をしてたちまち回心者を出してしまった。

しかし彼が来たのは驚くべきもくろみからだった。彼はイスラムのほうへ行って「スルタン」「スルタン!」と呼びながら、どんどん中へ入って行ってしまった。そして神の助けで、そこに来ていたスルタン、アル・カーミルに面会したのである。イスラム側も交渉の最中であり、多分フランチェスコを使者だと勘違いしたのだろう。

ところがフランチェスコはマジで、スルタンに説教をしに来たのだ。キリスト教徒になれば戦わずに済むと。そんなことを試みた者が今までいただろうか!さすが神の舌である、アル・カーミルはそれに聞き入ったという。そして聞き終わると「どの信仰が神のお気に召すのかを神が私に示してくださるよう、私のために祈ってくれ」と言ったということだ。

フランチェスコはその頼みを承知し、なお数日間イスラム陣営に説教しにいった。そして聖地エルサレム巡礼に行った。伝説によれば、フランチェスコが死後、2人の弟子の前に姿を現し、エジプトに行かせて危篤に陥ったカーミルの所に行き約束した神意を告げ、スルタンの死を看取ったとのことだ。「まあ父は一人なんだから」と天界でイエスが言ったかどうか定かではない。

下は多分ジョット作「スルタンの前の聖フランチェスコ」

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キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民

キリスト教なしに西洋史は読めないというほど深く痕跡を残しています。そういうキリスト教を念頭に置きながら、西洋史を読んでいこうと思います。もちろん批判的観点もおおいにアリ。 ローマ時代コンスタンティヌスから始まる長い物語、お楽しみいただければ幸いです。