ロマン派の時代60-ワーグナーの指輪完成

1876年8月13日、ついにワーグナーの超大作「ニーベルングの指輪」が第1回バイロイト音楽祭で上演された。とにかく4部作であり、全部見るのに4日かかる。初演にはドイツ皇帝やブラジル皇帝などのVIPが訪れたが、回を追うごとに聴衆が少なくなり、大赤字になって生前二度と上演されることはなかった。

現代に例えれば、スターウォーズや指輪物語を舞台でやろうとするようなもので、神々の世界とその終末を演じるには、当時の舞台技術はあまりにチャチすぎ、現代でも不可能で、映像技術を使って何とか間に合わす程度である。ワグナーの妄想たるやとてつもないものがある。

ストーリーとしては、世界を支配する指輪を生み出すが、それには呪いがかけられて、それをめぐって争いが起こる。ついに呪いに打ち勝つ英雄ジークフリートが生まれるが、今度は人間の欲望の罠にはまって神々の世界は滅亡し、指輪は元のラインの妖精の手に戻される。

ワグナーは近代社会の告発と芸術による改心、原初の世界への復帰を言いたかったのだが、聴衆が見たのは出来の悪いスペクタルだった。現代映画でもスターウォーズなど深遠なテーマはあるのだが、観客が見るのは壮大で現実を一時離れられるエンターテインメントである。

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キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民

キリスト教なしに西洋史は読めないというほど深く痕跡を残しています。そういうキリスト教を念頭に置きながら、西洋史を読んでいこうと思います。もちろん批判的観点もおおいにアリ。 ローマ時代コンスタンティヌスから始まる長い物語、お楽しみいただければ幸いです。