帝国の時代50-帝国の責務

1870年、当代きっての雄弁家で才人、社会評論家のジョン・ラスキンが、オックスフォード大学での教授就任式で「帝国の責務」という演説を行った。この前評判は高く、演説には学生が座りきれず、隣の建物まで押し寄せ、さらに路上聴講まで出るありさまだった。

ラスキンは、イギリスには天命があるという。全世界の光の源、平和の中心、学問と芸術の女王、伝統的道義の忠実な守護者になるべきだ、と説く。そのために実りありながらうち捨てられているあらゆる地に手を伸ばし、植民地を築くべきだ、と述べるのである。

大英帝国は初めから領土を求めたわけではない、むしろ欧州大陸には距離をもち、商業主義大国だった。1861年になっても議会では西アフリカからの完全撤退を論議した。帝国といっても、現地に出て行った人間が適当に広げていったのである。植民地をつくることが責務といったのがこれが初めてだった。

この演説は青年に大望を与え、勇躍海外に飛び出していくことになる。その一人がセシル・ローズである。この演説で、彼はアングロサクソン人こそ世界で最も優秀な民族であり、この民族のもとで世界は統一されるべきだと考えた。彼は南アフリカでローデシアをつくり、空の星まで占領したいと言った。

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キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民

キリスト教なしに西洋史は読めないというほど深く痕跡を残しています。そういうキリスト教を念頭に置きながら、西洋史を読んでいこうと思います。もちろん批判的観点もおおいにアリ。 ローマ時代コンスタンティヌスから始まる長い物語、お楽しみいただければ幸いです。