1865年ワグナーの楽劇「トリスタンとイゾルデ」が初演された。ワグナーは亡命生活で、大きな作品は作られていない。彼の作品はリストなどの推しで演奏されていたが、彼を支えたのは豪商ヴェーデンドンクだった。そしてこともあろうに、彼は妻マティルデと不倫に陥る。この楽劇はその経験の集大成といえる。
楽劇のストーリーは、秘薬を誤飲して2人が不倫の恋に落ちるが、やがて見つかり、二人とも死んでしまうという単純ストーリー。これを「トリスタン音階」と言われる半音階を駆使した官能的な音楽で、ひたすら歌い上げる。そして賛美するのはひたすら夜と死である。
実際ワーグナーはこのとき失楽園のような道ならぬ恋で死にたかったろう。が、これはワグナーが傾倒していたショーペンハウアーの影響が入っている。ルイ15世の時代も不倫はブームだったが、国王にしても一応教会で来世を頼んでいた。ところが楽劇はラストシーンで、天国ではなく道教的な自然世界に入っていく。
ワグナーは、ここから歌とオーケストラが一体化し、さらに劇も一体化された「楽劇」という総合芸術を志向する。これは19世紀グランドオペラの極点をめざすものである。そしてこれまでの芸術を否定し、自分の芸術が世界を再建して救うという誇大妄想的志向もどんどん膨張してゆく。
キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民
キリスト教なしに西洋史は読めないというほど深く痕跡を残しています。そういうキリスト教を念頭に置きながら、西洋史を読んでいこうと思います。もちろん批判的観点もおおいにアリ。 ローマ時代コンスタンティヌスから始まる長い物語、お楽しみいただければ幸いです。
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