近代思想15-アーリア人学説

エルネスト・ルナンは開かれた聖書研究を呼び起こしたが、彼が無用心に使った「アーリア人」対「セム人」という言葉は、聖書を使っただけに大きな影響をもたらした。イエスキリストの偉大な思想は、セム人ではなく、ヨーロッパに居るアーリア人が受け継いだというのである。

ここでは当時広まっていた「アーリアン学説」によっている。これを提唱したのはイギリスの言語学者ウィリアム・ジョーンズで、彼はインド滞在中に、インドのサンスクリット語を研究し、文法構造がヨーロッパ言語と類似していることを指摘し、ペルシャやインドとヨーロッパを共通語族とした。

この学説は言語上のものだったが、それだけではおさまらない。サンスクリット語を話すアーリア人が、インドからヨーロッパにわたる広い地域に侵入して、そこで文明をつくりあげたという学説をドイツ人のマックス・ミュラーが唱えた。まあ壮大な説だが歴史的根拠はない。

しかし、この説は学説を離れて社会的な力を発揮していく。イギリスにおいては、なんとイギリス人とヒンドゥー教支配階級のインド人は同じアーリア人とされ、イギリス人支配の理由づけとされた。ドイツでは、ゲルマン人が最も純粋なアーリア人というイデオロギーが流布して、ナチス思想につながってゆく。

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キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民

キリスト教なしに西洋史は読めないというほど深く痕跡を残しています。そういうキリスト教を念頭に置きながら、西洋史を読んでいこうと思います。もちろん批判的観点もおおいにアリ。 ローマ時代コンスタンティヌスから始まる長い物語、お楽しみいただければ幸いです。