1863年、エルネスト・ルナンの「イエス伝」が出版された。ルナンは、1860年から政府の命令で、パレスチナ調査を行い、それに基づいて、奇跡を一切省いた「偉大な人間イエス」を描いたのである。彼によれば、イエスの行った治癒は、偉大な人間に会った喜びであって本当の治癒ではない。
さらにイエスの復活については、マグダラのマリアら女性らが見た幻想、想像力の産物だと切って捨てた。すでに奇跡ついては、啓蒙主義の時代から知識人には信じられていない。アメリカ建国の父トマス・ジェファーソンも個人的に奇跡の部分をすべて抜いた聖書を作っていた。
しかしキリスト教にとってはたいへんなことである。使徒パウロが言うように「復活がなければ信仰も無駄」だからである。信仰によって永遠の命を得る、という文句はミサの常套句なのだ。各方面から非難の嵐が来たのはいうまでもない。しかしこの書は科学的な聖書研究に道を開いたとはいえる。
しかし彼は一方でユダヤ人は利己的で狡猾で詭弁家だとけちょんけちょんである。そして、ガリラヤ地方の温和な気候がイエスを生んだとし、キリスト教にユダヤ的なものは何もなくアーリア人のもので、セム人の役割は終わったと結論づけた。科学的態度といいながら偏見から脱するのは難しいということを示している。
キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民
キリスト教なしに西洋史は読めないというほど深く痕跡を残しています。そういうキリスト教を念頭に置きながら、西洋史を読んでいこうと思います。もちろん批判的観点もおおいにアリ。 ローマ時代コンスタンティヌスから始まる長い物語、お楽しみいただければ幸いです。
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