ロマン派の時代47-ボードレール「悪の華」

理想に失望したもう一人の男がシャルル・ボードレールである。彼は、1857年に詩集「悪の華」を出版したが、こちらは有罪となり、罰金を払い問題となった6編を削除して許された。この詩集の冒頭で、人間は悪に近いものと宣言されるが、その最たるものは「倦怠」として、読者を「偽善者」と呼ぶ。

彼は、上流家庭に生まれ、エリートコースをたどるが、それに反抗して文学者となり、放蕩の人生を送った。48年革命に参加してブランキやプルードンの無政府主義に影響され、実は無署名ながら社会評論記事も書いている。決して無関心な男ではなく、むしろありすぎる男である。

彼もまた近代資本主義の金ピカの時代に失望した一人である。そして彼はその理想を「交感(コレスポンデンス)」に表している。自然と人間が共感し合う時代に戻れというのである。実はフローベルも愛をそのような描写をしており、音楽ではワグナーが「トリスタンとイゾルデ」で表現する。

ボードレールの「倦怠」とは、理想を失い日々快楽を求めていく自分の姿だが、この詩集はそれを極端に描いただけであり、自由平等友愛の革命の理想がなくなって、日々の楽しみに移ろう近代の堕落を身をもって示したといえる。近代が進むにつれ、芸術家達は新しい理想郷を芸術を通して探していく。

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キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民

キリスト教なしに西洋史は読めないというほど深く痕跡を残しています。そういうキリスト教を念頭に置きながら、西洋史を読んでいこうと思います。もちろん批判的観点もおおいにアリ。 ローマ時代コンスタンティヌスから始まる長い物語、お楽しみいただければ幸いです。