実はこのクリミア戦争に、後の文豪トルストイが従軍しているのである。トルストイは伯爵家の4男に生まれ、1847年に広大な農地を相続し、ペテルスブルクで遊興にふけるなど、典型的な貴族のボンボンの生活を送る。そしてその後、他の青年貴族同様軍務につくことになった。
そして、なんと行ったのがクリミア戦争の激戦地セヴァストポリ要塞である。この一風変わったであろう軍人は、この経験を小説として発表するわけだが、冒頭からとても戦地とは思えない美しい朝の自然の情景から始まる。そしてその後日常となった戦場で仕事として戦う人たちを描くのである。
しかしトルストイは、その激戦を見ることを通じて「死の瞬間」を体験することになる「一秒ではあるが、感情・思想・希望・回想の一大世界が、彼の脳裏をひらめき通った」この悠久の自然の中で、一瞬一瞬死ととなりあわせに愚かしくも生きる人間達を後に大著「戦争と平和」で描くことになる。
「戦争と平和」は、ロシアへのナポレオンの侵攻を壮大な視点で描いた小説だが、それはクリミア戦争前後のトルストイ自身を描いたものといえる。押し寄せる近代の衝撃に苦しみながら、生き残ったピエールは捕虜生活で信仰に回帰し、ナターシャと夫婦になる。トルストイも非戦主義となり、日露戦争に反対した。
キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民
キリスト教なしに西洋史は読めないというほど深く痕跡を残しています。そういうキリスト教を念頭に置きながら、西洋史を読んでいこうと思います。もちろん批判的観点もおおいにアリ。 ローマ時代コンスタンティヌスから始まる長い物語、お楽しみいただければ幸いです。
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