1850年末から51年にかけて、フランスの絵画サロンにジャン=フランソワ・ミレーの「種まく人」が出展されて入選した。彼は農民の子であり、前年からパリ近郊の田園地帯バルビゾンに移住していた。ここには写実的な画風の画家が移住して住み、バルビゾン派と呼ばれるようになる。
「種まく人」は福音書にも出てくるテーマだが、力強く大地に生きる農民の姿が描かれている。ところがこれが貧農の姿を表す社会主義的な主張として、政治的議論を巻き起こすのである。実は48年には農民画の「箕をふるう人」が入選して好評を得ていたのに、革命政府が崩壊して評価が一変してしまった。
同じサロンにはバルビゾン派のクールベが、冷徹ともいえる写実で「オルナンの埋葬」を出展し、これも社会主義的な絵だと非難を浴びた。悲惨さなら、ドラクロワの絵も結構負けないだろうが、彼は時流に乗るのがうまかったというか、それから政府発注の絵や歴史画ばかり描いていた。
高邁な理想を描くことでは、古典絵画もロマン派も変わりはない。ミレー達は、現実の姿をリアルに描くことで近代絵画を開いた。ミレーを評価したのが、まずアメリカ人というのは皮肉なことだが、聖書を守り大地に息づく農民の姿はまさに当時のアメリカ人だった。
キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民
キリスト教なしに西洋史は読めないというほど深く痕跡を残しています。そういうキリスト教を念頭に置きながら、西洋史を読んでいこうと思います。もちろん批判的観点もおおいにアリ。 ローマ時代コンスタンティヌスから始まる長い物語、お楽しみいただければ幸いです。
0コメント