近代思想10-実存主義の祖キルケゴール

1843年、実存主義の直接の祖とされるセーレン・キルケゴールの「あれかこれか」が発表された。これは当時主流のヘーゲル哲学への反駁である。ヘーゲルは、対立はやがて高次元で止揚されると説く「あれもこれも」である。しかしキルケゴールは人生の現実の瞬間は「あれかこれか」の選択だと言う。

例えば失敗すればそれを機に別のことをするのはヘーゲル的解決である。しかし現実には立ち直れるかわからない。戦争をして和平をするのは解決かもしれないが、それで死んだ人間にとっては何の解決にもなっていないではないか。選択の瞬間はシビアで未来への不安がつきまとう。

続く「おそれとおののき」では信仰がとりあげられる。聖書の信仰の祖アブラハムが神から子供を捧げよと命令されたことをとりあげ、信仰は選択であり、倫理を越えるというのである。確かにイエズス会らは、当時の日本の倫理を越えていた。しかしキルケゴールは誰かの命令ではなく、あくまで自分だけの選択だというのである。

19世紀は進歩主義の時代であり、人間や時代の進歩が信じられ、指針を持つことができた。しかし20世紀でそれが対立と戦争になると、指針はなくなり、自分が選択せざるをえなくなる。不安の世紀に実存主義は流行する。

0コメント

  • 1000 / 1000

キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民

キリスト教なしに西洋史は読めないというほど深く痕跡を残しています。そういうキリスト教を念頭に置きながら、西洋史を読んでいこうと思います。もちろん批判的観点もおおいにアリ。 ローマ時代コンスタンティヌスから始まる長い物語、お楽しみいただければ幸いです。