ロマン派の時代21-風刺画家ドーミエ

一見華やかに見える7月王政の裏では激しい対立が隠されていた。かつて時事問題を描いたドラクロワは、政府お抱え画家となって政府建築の装飾をせっせと描いていた。しかし大衆誌にそれを描いた画家がいる、オーノレ・ドーミエである。彼は当時の新技術だったリトグラフを習得して政治風刺を行う。

挿絵による風刺は、印刷術が起こった宗教改革の頃からある。しかしドーミエは、政治風刺と都市庶民の貧困をリアルま目で描いた。その彼が、34年に起こった反乱をテーマに描いたのが「トランスノナン街1834年4月15日」である。これは暴動で兵士が殺された復讐に、市民を虐殺した事件である。

このリトグラフは、リアルな殺人現場であるが、静謐で崇高な雰囲気も漂う。中央の死んだ男には光線が当たっている。ダヴィッドは、「マラーの死」で殉教者のように描いたが、ドーミエも殉教のように描く。シーツにくるまれた遺体はまるでキリストのようだ。

実はドーミエは油絵で「キリストとその弟子達」という絵を描いている。弟子は本当に貧しい庶民のように描かれ、身を乗り出してキリストの言葉を聞いている。ドーミエも庶民の貧困を描きながら、キリストに問いたかったのだろうか?彼の絵はゴッホに大きな影響を与えた。

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キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民

キリスト教なしに西洋史は読めないというほど深く痕跡を残しています。そういうキリスト教を念頭に置きながら、西洋史を読んでいこうと思います。もちろん批判的観点もおおいにアリ。 ローマ時代コンスタンティヌスから始まる長い物語、お楽しみいただければ幸いです。