苦悩と歓喜8-信念を貫く「エグモント」

ウィーンにナポレオン軍が近づくと、ベートーヴェンは少しでも遠くに行こうと弟の家に避難する。それでも着弾音はすさまじく、耳栓をしていたが、やはり耳にダメージを与えた。再占領でウィーンを我が物顔に歩く仏兵士に「もし対位法と同じくらい戦術に精通していれば目にものみせてくれるのに」と言った。

もはやナポレオンへの期待はまるでない。彼のような啓蒙派を敵にまわしたことが、ナポレオンのその後の没落の一因となるのだろう。ベートーヴェンは、この時代でも傑作を書いていく。が、傑作ピアノソナタ第25番が、勝手に「皇帝」と名付けられたのは皮肉としかいいようがない。

そしてピアノソナタ第26番「告別」は、パトロンであり、作曲の弟子だったルドルフ大公との別れに際して作曲した曲である。しかも第一楽章には「告別」第二楽章には「不在」そして第三楽章には「再会」の副題がつけられている。交響曲第六番「田園」にも楽章ごとに副題がつけられている。

そしてベートーヴェンはゲーテの「エグモント」で劇音楽をつくる。この戯曲は、フェリペ2世の頃、ネーデルランドの新教弾圧に反対して処刑された実在の伯爵をモデルにしている。囚われても、自分の自由への信念を貫いて死ぬヒーローの音楽を創ったところに、ベートーヴェンの時代性が表れている。

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キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民

キリスト教なしに西洋史は読めないというほど深く痕跡を残しています。そういうキリスト教を念頭に置きながら、西洋史を読んでいこうと思います。もちろん批判的観点もおおいにアリ。 ローマ時代コンスタンティヌスから始まる長い物語、お楽しみいただければ幸いです。