苦悩と歓喜7-ベートーヴェン交響曲第5番

1808年末のオーストリアでは着々と戦争準備が進んでいた。墺軍は、歴戦の兵士を多く失ったため、徴兵制度が導入された。宮廷では、軍議が重ねられていた。ナポレオンと再び矛を交えるのは時間の問題だった。そんな緊迫した状況でベートーヴェンの新作の音楽会が開かれた。

そしてここで演奏されたのはすべて新作だったが、交響曲第5番と6番が同時に発表された。第5番は、日本では「運命」として知られている。冒頭の劇的な動機は、07年に出版されたピアノソナタ第23番「熱情」にも使われ、このソナタもいきなり強い音階が鳴らされる。

第5番のテーマは、人間の苦悩から歓喜への道程というのが定説である。もちろん自身の苦悩はもちろんだが、輝かしかったはずのフランス革命が、戦争と侵略を生んだという時代の苦悩を描いているといえる。知識人達は革命と戦争に悩みながら、何らかの決断を迫られていた。

第5番は、冒頭の動機が展開して、緊密な構成を作り上げていくという点で、それまでの音楽を変えるものだった。音楽に論理学的構成を作り上げたといえる。しかしベートーヴェンはこの演奏会に全新作と入れ込みすぎて、練習がおいつかず失敗してしまう。そしてウィーンに嫌気がさして逃げ出そうと思うのだ。

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