苦悩と歓喜5-オペラ「フィデリオ」

オペラを書きたかったベートーヴェンに、願ってもないチャンスが訪れた。フランスの民衆反乱を題材にしたジャン・ニコラス・ブイイの戯曲をもとに、ウィーン主要劇場のオーナーになったブラウン男爵がオペラの依頼を、もちかけたのだ。後のベートーヴェン唯一のオペラ「フィデリオ」である。

面白いのが、このオペラの主人公が政治犯で捉えられた夫を、妻が男装して救いだしに行くというストーリーである。女性が活躍した革命初期の状況を映し出している。オペラでは、夫婦の理想的な愛ということでうまく処理していて、アリアもそれに則って書かれている。

この戯曲は、やはりウィーンの検察当局に禁止されたが、フィガロの結婚と同じく、台本作者が、皇后の推薦をもらってなんとか制作を許可してもらった。オペラは、バスティーユのように反乱するのではなく、正義の大臣が来て救われるという点で、ラディカルさが緩和されている。

しかし、何と初演の1805年11月20日の前にウィーンはナポレオン軍に占領され、観客の大半はドイツ語のわからないフランス兵士で、大失敗に終わった。ベートーヴェンは、このオペラを何度も書き換え、最終版初演が行われたのは、革命が失われ、ウィーン会議が行われる1814年だった。

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キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民

キリスト教なしに西洋史は読めないというほど深く痕跡を残しています。そういうキリスト教を念頭に置きながら、西洋史を読んでいこうと思います。もちろん批判的観点もおおいにアリ。 ローマ時代コンスタンティヌスから始まる長い物語、お楽しみいただければ幸いです。