苦悩と歓喜2-ゴヤ「裸のマハ」

ナポレオンが自分の肖像を送ろうとしたスペイン王カルロス4世、英明な父カルロス3世は国内を改革したが、息子は頭が悪く、政治を王妃と宰相ゴドイに任せた。スペインはフランス革命に中立だったが、共和国に攻め込まれてバーゼルの和約を結び、親仏となったのだ。

ナポレオンは、スペインの海軍をあてにして軍艦6隻をもらっていた。絵画と共にピストルやドレス、宝石も送られたが、カルロス4世の返礼は、馬16頭と国王夫妻の肖像だった。それを描いたのは宮廷画家フランシスコ・デ・ゴヤである。彼は1786年40歳で宮廷画家となった。

しかしゴヤは、92年にベートーヴェンのように聴力を失い、その後人間の暗部に眼を向けた絵を描くようになる。実は彼は啓蒙主義の影響を受けていたのだが、現実の民衆は現世欲にまみれているそれを「カプリチョス」という版画で表わす。

そしてこの時期取り掛かったのが、あの有名な「裸のマハ」「着衣のマハ」である。この絵はゴドイの邸宅にあり、表は着衣だが、ひっくり返せばヌードが見えるようになっていた。しかし理想を描くダヴィドの新古典派と正反対で、まさに情念と欲望を宿した生身の女性である。ゴヤは現実世界を描くという近代絵画の扉を早くも開いたのである。

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キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民

キリスト教なしに西洋史は読めないというほど深く痕跡を残しています。そういうキリスト教を念頭に置きながら、西洋史を読んでいこうと思います。もちろん批判的観点もおおいにアリ。 ローマ時代コンスタンティヌスから始まる長い物語、お楽しみいただければ幸いです。