大帝コンスタンティヌスの母ヘレナ5-悪徳

塩野七生からヤマザキマリに至るまで、ローマ帝国ファンは多分多い。カッコイイ戦士、死を恐れず、神々の座につくために戦う。ルネサンスに復活し、今は多分アメリカの自由の戦士に至るまで、理想化されたローマへの憧憬は大きい。しかしそれって実情は侵略戦争である。ローマの富は侵略戦争による大土地での奴隷農業から成り立っていたのだ。

しかも富が一部のローマ貴族が独占すると共に、贅沢や悪徳、堕落がはびこった。「健全な肉体に健全な精神が宿る」という言葉は、ローマの風刺家ユヴェナリスの言葉であるが、その文は最初に「こう願うがよい」と書かれていて、叶わない願望なのである。ユヴェナリスは、「悪徳がこんなに実ったときがあったか」と嘆いている。

キリスト教はそれに虐げられた人、狂った世を憂う人に浸透していった。2世紀には聖書が成立、特に後にできたルカ福音書は「神の救い」、ヨハネ福音書には「神の愛」が中心的に書かれ、貧しくとも神を愛し隣人を愛した者は天国に行けると説いた。ルカの冒頭には、おなじみクリスマスストーリーが書かれ、救いのために自分達と同じ境遇に生まれた神は共感を得た。

ヨハネの冒頭は有名な「はじめに言葉ありき」であり、哲学的要請にも答えられている。そしてマルコ福音書には、結婚について、当時夫が言えば離縁できた常識に反し「神がつないだものを人が離してはならない」と書かれている。当時の常識では考えられないような女性の人権宣言であった。まさに「心の貧しき者」への福音である。

下はトマ・クチュール作「退廃期のローマ人達」

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キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民

キリスト教なしに西洋史は読めないというほど深く痕跡を残しています。そういうキリスト教を念頭に置きながら、西洋史を読んでいこうと思います。もちろん批判的観点もおおいにアリ。 ローマ時代コンスタンティヌスから始まる長い物語、お楽しみいただければ幸いです。