その頃からヘレナはキリスト教という不思議な宗教に心をひかれるようになった。彼らは自分のように身分の卑しい者が多い。が、つつましく真面目な生活をしていた。何よりも、夫婦が互いに結びついて、自分の夫のように女性を捨てるようなことをしない。それは結婚は神の決めたものだから神聖なもので、別れてはならない、お互い愛しあわねばならないのだという。
彼らの神は天に居るが、一度降りてきたという。しかも何と肉体をもって、愛を教えるために自分を犠牲にして十字架にかけられて死に、復活して天にのぼった、その名はイエス。彼を信じる者は、神のように死しても永遠の命が与えられるというのだ。その永遠の命を得るために、彼らは現世の命をも捨てることがある。
キリスト教徒は自分達のコミュニティを持ってローマの神々を礼拝しようとしない。そのため過去の時代には「子供の生き血を飲んでいる」とか「乱交をしている」「陰謀を企んでいる」と言われて迫害を受けた。ネロ帝には自分が行った大火のスケープゴードにされた。しかし清潔な生活態度は皆に承認され、この頃にはもう市民権を得て広がっていたのだ。
たとえ女性でも、命を捨てることがある。シチリアに居たアガタという貴族の娘は、キリスト教徒となり、その美貌で権力者に目をつけられた。彼女は禁制のキリスト教徒とわかり、権力者の妾になれば許してやるといわれ、それを拒否した。彼女は乳房を切られるという拷問を受けたがそれでも信仰を捨てず、神の教えのために命を落とした。そうした多くの人達を教徒達はローマの英雄のように讃えている。
下はジョバンニ・ランフランコ作「聖アガタの傷を癒す聖ペテロ」
キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民
キリスト教なしに西洋史は読めないというほど深く痕跡を残しています。そういうキリスト教を念頭に置きながら、西洋史を読んでいこうと思います。もちろん批判的観点もおおいにアリ。 ローマ時代コンスタンティヌスから始まる長い物語、お楽しみいただければ幸いです。
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