西暦293年、茫然としている一人の女性が居る。彼女の名はヘレナ、後の大帝コンスタンティヌスの母にして聖女、聖大后と称せられている女性である。しかし今は惨めな女性、彼女は夫と別れ、愛する一人息子を監禁された。夫の名はコンスタンティウス・クロヌス。セルビアの宿屋で女中として働いているときに知り合った、彼はローマ軍のたかだか百人隊長だった。
当時のローマ皇帝はディオクレティアヌス、一兵卒から皇帝にかけのぼった男である。この時代、帝国は北からも南からも異民族が侵入して危機にあった。そんなときに由緒など言っていられない。この皇帝は近衛隊長だったが、先帝が暗殺されて、急遽軍の推挙で帝位を継いだのである。皇帝はまず帝国を分割して、自分の同僚であったマクシミアヌスを西の皇帝とした。
さらにそれぞれ副帝をつくって4分割のテリトリー制で、大きすぎる帝国の安定化を図ったのだった。その西帝マクシミアヌスの副帝に、あろうことか出世した自分の夫が推挙されたのだ。その条件として、西帝は自分の義理の娘とコンスタンティウスを結婚させ、ヘレナは離縁されたのだ。もともとローマには女性の権利などはない。
しかも自分の子もとりあげられた。新妻にしてみれば、先妻の子は邪魔以外の何物でもない。もう息子の命さえわからない。今まで自分の信じてきたものを奪われて、これで変わらない人間はいないだろう。
キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民
キリスト教なしに西洋史は読めないというほど深く痕跡を残しています。そういうキリスト教を念頭に置きながら、西洋史を読んでいこうと思います。もちろん批判的観点もおおいにアリ。 ローマ時代コンスタンティヌスから始まる長い物語、お楽しみいただければ幸いです。
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