次第に没落し、閉じ込められていくスペイン。ヴェラスケスも王宮に閉じ込められた。しかし何と何と、彼はその中で、絵画史上に残る最高傑作を描くのである、それは「ラス・メニーナス(女官たち)」と呼ばれる。マルガリータ王女を中心として、愛犬や矮人、シスター、鏡の中には国王夫妻まで居る。
まさにこの一枚に王宮のすべてが凝縮され、鏡を通じて鑑賞者は、今まさに画家が王を描いている王宮の空間の中に案内されるのである。その凍ったような空気が、外から入ってきた召使によって動き出す。視線に至っては皆まちまちに見えるが、実は鏡に映ったリアルの国王夫妻を見ているのだ。
もっと思考すれば、この絵は驚くほど動的になる。王女は実は国王夫妻の側に居たのである。ところがポーズに疲れてこっちへ来ちゃったのだ。そこで女官達がなだめているのだ。召使は騒がしいので何事かと入ってきた。何と音まで聞こえてくる。
ヴェラスケスは己れの技術はもとより、絵画知識哲学すべてを賭けてこの一作を描いた。それは現実を神話化する彼の絵の頂点といえる。沈みゆくスペイン、その最後の栄光と愛すべき国王の姿を、何と顔ではなく、宮廷のストーリーとして表現したのである。これこそまさに「絵画の神学」であり、絵画としてのスペイン絶対王政であるだろう
キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民
キリスト教なしに西洋史は読めないというほど深く痕跡を残しています。そういうキリスト教を念頭に置きながら、西洋史を読んでいこうと思います。もちろん批判的観点もおおいにアリ。 ローマ時代コンスタンティヌスから始まる長い物語、お楽しみいただければ幸いです。
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