バロックの時代22-鏡のヴィーナスの世界

ローマ遊学でさらにヴェラスケスは重要な作品を描く「鏡のヴィーナス」である。この画題は、厳粛なスペインでも許された裸体画だったようだ。もちろん彼の先輩でライバルのルーベンスもかなり似ている絵を描いている。意識しているのは間違いない。

しかしヴェラスケスらしいというか、なんという生々しい肌の色だろうか。ヘアスタイルも女神には見えない、現実の女性である。神話世界を現実世界に融合させるというヴェラスケスの世界そのもの、鏡に映った顔を見ても、神話らしい神々しさはない。

鑑賞者を意識しないこの絵は、実に鑑賞者を女性のプライベートの「のぞき」の世界へいざなうのである。この「のぞき」効果は、同時代の画家フェルメールも存分に使っている。この絵は、オリバーレス伯公爵の甥の息子の手にわたり、多分プライベートな地下の秘密鑑賞室に置かれた。

ヴェラスケスらしからぬこの絵のモデルは、イタリア留学中の恋人だったという説がある。彼はこの遊学中にマルタという女性との間に子供をつくったと、公証人記録に残っている。スペイン帰国は1年延びたが、子供を目にすることはかなわず、再びイタリアに行く望みはかなわなかった。

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キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民

キリスト教なしに西洋史は読めないというほど深く痕跡を残しています。そういうキリスト教を念頭に置きながら、西洋史を読んでいこうと思います。もちろん批判的観点もおおいにアリ。 ローマ時代コンスタンティヌスから始まる長い物語、お楽しみいただければ幸いです。