万能の人16-ヴュルツブルクの彫刻マイスター

そして1505年、神聖ローマのマクシミリアンがヴュルツブルクに訪問したとき、町の門で出迎えた者が居た。彼の名はティレマン・リーメンシュナイダー。現在「ドイツのミケランジェロ」と称せられる彫刻家だが、それまで歴史からまるで抹殺されていた人物である。

彼は1460年に北ドイツはザクセン州に生まれた。父は貨幣鋳造のマイスターだったが、事業に失敗して、長男を頼りヴュルツブルクに来た。次男のティレマンは、彫刻というか木工職人を志し、ドイツ職人の習慣である各地の親方のもとで修行を積む遍歴を過ごした。

1483年、父の死でヴュルツブルクに戻り独立。伯父のつてで市の高位聖職者とつきあうことができ、教会の彫刻を手掛けて評価を高めていった。1501年、ローテンブルクの聖ヤコブ教会から委託を受け、その祭壇彫刻を制作したが、その中心の「最後の晩餐」は迫真の群像で「ヴュルツブルクのマイスター」として名をドイツ中に轟かせることとなった。

1504年、彼は市会議員に選ばれ、1505年、以後10年をかけてヘルゴット教会で最高傑作と言われる被昇天マリア祭壇彫刻を行うこととなる。マクシミリアンを接待したのは、油ののりきった時期だった。彼は市のために尽くしてゆくのだが、やがて来る宗教改革の中で悲劇に襲われるとはこの時点で誰も知らなかった。

下はヘルゴット教会の聖母被昇天祭壇。宗教戦争を逃れるため布に包まれたが放置され19世紀に再発見された

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キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民

キリスト教なしに西洋史は読めないというほど深く痕跡を残しています。そういうキリスト教を念頭に置きながら、西洋史を読んでいこうと思います。もちろん批判的観点もおおいにアリ。 ローマ時代コンスタンティヌスから始まる長い物語、お楽しみいただければ幸いです。