現代芸術20-音楽の分裂と混乱

大戦は音楽家も分裂させた、これがフランスに強く表れたというのも驚く。文豪ロマン・ロランがいち早く戦争中止を提言したのとは対照的である。フランス国民音楽協会を創設したサン=サーンスは、ワグナーを罵倒したのは言うまでもなく、なんとあのドビュッシーが「ゲルマン民族を世の中から一掃する必要がある」とまで言った。幸いにもベートーヴェンはフランドル人と思って安堵したようだが。

しかし音楽大国オーストリアではそれは問題にならなかった。戦時中でも平気でフランス音楽を演奏したいたそうである。そもそもウィーン音楽はよそ者が創った音楽である。ベルリンでも「カルメンを演じられなければシェークスピアもダメになる」とまともな論調が通っていた。

そしてドイツでは、芸術主義が復興し、バッハからモーツァルト、ベートーヴェン、ブラームス、ワグナーなどの「芸術に値する」名作が演奏された「今や至上のものが高らかに響くときである」。これも自分達が創り、演奏してきたものが最上だというナショナリズムの変形と見えなくもない。

さらにミュンヘンではビアホールコンサートも開催された。国民に安く本格的な音楽を提供し、収入の減った音楽家を救うことでもあった。これを主導したのはあのブルーノ・ワルターである。彼は勝利と平和のために「芸術の力を社会的な目的のために用いよう」と言ったがユダヤ人だったためヒトラーの時代に亡命する。

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キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民

キリスト教なしに西洋史は読めないというほど深く痕跡を残しています。そういうキリスト教を念頭に置きながら、西洋史を読んでいこうと思います。もちろん批判的観点もおおいにアリ。 ローマ時代コンスタンティヌスから始まる長い物語、お楽しみいただければ幸いです。