世界大戦への道31-独仏大作家の論争

皇太子の暗殺は、ウィーンっ子にそれほどの感情を呼び起こさなかったようだ。ところがセルビアに宣戦布告するや、民衆は熱狂したと作家ツヴァイクは回想している。まあ帝国というものの、イタリアにもプロイセンにも負けており、うるさいセルビアごときは一蹴できると思ったとしても不思議ではない。

しかしドイツとなれば敵は当然英仏である。なんと後にナチスと戦ったトーマス・マンもこのときは戦争を賛美したのだ「戦争!我々が感じていたもの、それは浄化であった。解放であった、そして途方もない希望であった」彼はこの戦争を物質文明に対するドイツ精神の戦いと考える。

一方フランスの大作家ロマン・ロランは反戦主義者として「戦いを越えて」というエッセイを発表してマンを批判した。しかしロランもドイツ軍がランス大聖堂を砲撃したのがけしからんと多分にナショナリズム的なことを書いている。大戦は芸術家をも分裂させたのだ。

カンディンスキーと共に「青騎士」の主要作家であった画家フランツ・マルクも「まずは偉大なる戦争によって前進し、そして新たな生活と新たな理想を形成する」と書く。戦争という破壊を通して古いものが倒れ、新たな理想が生まれるという終末論的思想はこの時代、かなり浸透していた。

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キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民

キリスト教なしに西洋史は読めないというほど深く痕跡を残しています。そういうキリスト教を念頭に置きながら、西洋史を読んでいこうと思います。もちろん批判的観点もおおいにアリ。 ローマ時代コンスタンティヌスから始まる長い物語、お楽しみいただければ幸いです。