汎ゲルマン主義かぶれが騒いでも官僚主義的なドイツ=プロイセンを動かすことにならなかったかもしれない。しかしここに旗振り役が居たのである。ドイツ歴史主義を代表する学者としてベルリン大学の教授に就任していたトライチュケである。彼の講義をきいて官僚となった者は非常に多いのだ。
トライチュケは、フィヒテやヘーゲルと同じく国家主義であり「個人よりも国家が永続するゆえに個人は国家のために自らを犠牲にすべきだ」と著書で述べている。そして戦争は国民の聖なる愛の力を呼び起こし、金銭のためではなく名誉のために行われると戦争を肯定した。
彼はまた反英主義であり、ドイツが植民地をもたねば世界はイギリスとロシアに分割され、ドイツ語話者はいなくなると脅す。そして「勇敢な人間は発展し、臆病な人間は滅びる」という独特な人種主義で、「野蛮な血を絶滅させるため」植民地戦争に参加するべきだ、と説いた。
実に学問や歴史といいながらまるでイデオロギーである。ニーチェは「科学としての客観性を偽証する」といって歴史主義を批判した。トライチュケは日本にも影響を及ぼしたが、自国優先のために勝手に歴史と未来の方向を決め、戦争や侵略を肯定する思想は今日でも終わってはいない。
キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民
キリスト教なしに西洋史は読めないというほど深く痕跡を残しています。そういうキリスト教を念頭に置きながら、西洋史を読んでいこうと思います。もちろん批判的観点もおおいにアリ。 ローマ時代コンスタンティヌスから始まる長い物語、お楽しみいただければ幸いです。
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