近代思想21-モリス「ユートピアだより」

1890年、ウィリアム・モリスの「ユートピアだより」が出版された。モリスは近代デザインの父と呼ばれ、東洋や中世の手仕事に影響された美しいデザインやテキスタイルを生み出し、生活を美しく飾る「アーツ&クラフト運動」を推進した。日本ではそれに影響されて「民芸運動」が起こった。

そして実は彼はマルクス主義的社会主義者だったのだ。イギリス労働運動は、賃上げや条件改善を求める改良主義になったが、モリスらは、労働が苦痛となった資本主義社会を変えなければならないと社会の変革を訴えた。マルクスの人間解放の思想はモリスの理想とするところだった。

「ユートピアだより」は、未来にタイムスリップしたストーリーである。そこでは貨幣もなくなり、皆が自分の楽しみとして仕事をしている。政府や法律もなくなっている。ある意味機械もなく大聖堂が建設できた中世のようなものだ、モリスは自分の共産主義社会を描いたのである。

モリスはまた「モダンファンタジーの父」と呼ばれ、「世界のかなたの森」などの著書もある。現代日本でいえばジブリのファンタジーのようなものだろう。しかし単なるファンタジーではなく、ヨーロッパ知識人がマルクス主義に求めていたものを如実に表している。

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キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民

キリスト教なしに西洋史は読めないというほど深く痕跡を残しています。そういうキリスト教を念頭に置きながら、西洋史を読んでいこうと思います。もちろん批判的観点もおおいにアリ。 ローマ時代コンスタンティヌスから始まる長い物語、お楽しみいただければ幸いです。