教皇のお墨付きを得たフランチェスコは堂々と説教できる身分となった。アッシジの司教は彼に司教座聖堂での説教をゆだねた。その効果はすぐ現れた。1110年9月9日、フランチェスコの仲介でアッシジの上流階級と下流階級との和解の条約が結ばれた。奴隷はわずかな身代金で解放され、市民の権利は増大し、街は平和で豊かとなった。
フランチェスコは、アレッツィオやペルージャ、シエナでも町の調停者となった。彼は現世とは無縁の男のように言われているが実は現世的である。後にイスラムとも和解させようとするが、商売人の息子であった交渉力とは無関係ではないだろう。
これらの和解活動は、「聖フランチェスコの悪魔祓い」として伝説化されたが、その最たる例は「グッビオの狼」である。グッビオで村民を襲っていた狼のもとに行き、狼を大人しくさせた。それも説得だけでなく、ちゃんと人間が食べ物を与えるという現実的契約。そこに彼の和解のやり方が反映されている。
彼は親友で弟子のレオーネに、フランチェスコが地獄に行くよう祈るように言って問答になった。そして「完全な喜び」について語る。学問を納めても不信の者を回心させてもそうではない、という。むしろ宿を頼んでも追い出され、さんざんな目にあってキリストのために耐えるときにこそ完全な喜びがある、と言った「私のために迫害される者は幸いである」(マルコ)。
下は狼エピソードの生まれたグッビオのサン・ヴィットリア教会の像
キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民
キリスト教なしに西洋史は読めないというほど深く痕跡を残しています。そういうキリスト教を念頭に置きながら、西洋史を読んでいこうと思います。もちろん批判的観点もおおいにアリ。 ローマ時代コンスタンティヌスから始まる長い物語、お楽しみいただければ幸いです。
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