近代思想19-善悪は快不快である

1887年、哲学者ニーチェは「道徳の系譜学」を出版した。ここで彼は、善悪などはそもそも快不快の感情だ、と言い出した。そして人間の根本的欲望は「力への意志」だと言う。カントなら善悪は人間の良心に「定言命法」として備わっていると言っただろう、しかし神が死んだと共にキリスト教的道徳も死んだのだ。

「定言命法」というのはカントのような、キリスト教的価値を子供の頃から叩きこまれてきた人間が、それに従うのを快感に感じるからにすぎない。19世紀のロンドンでは貧民が流入してそういう価値観になじまず、食うためにせいいっぱいの孤児などが犯罪を激増させた。

ニーチェの言う力への意志とはマズローの欲求段階説のようなもので、常に高い欲求をめざすことを意味しており、単なる力ではないが、危うい言い方もしている。しかし善悪を快不快に還元したのは、重大なことであり、実はニーチェは生理学にも影響されている。

現代科学では、人間行動は快楽を司るドーパミンによってコントロールされていることがわかっている。何とドーパミンは快楽を司る線条体だけでなく前頭葉にも作用しており、現在の快楽と未来の快楽を比べることで「ガマン」することができるというのである。ニーチェの説の根拠が明らかにされたといえる。

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キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民

キリスト教なしに西洋史は読めないというほど深く痕跡を残しています。そういうキリスト教を念頭に置きながら、西洋史を読んでいこうと思います。もちろん批判的観点もおおいにアリ。 ローマ時代コンスタンティヌスから始まる長い物語、お楽しみいただければ幸いです。