第4回十字軍23-ドミニコ戦火の中を歩く

さてそんな騒乱の中でドミニコはというと、相変わらず歩き続けていたのである。もちろん小説家なら彼の内面の懊悩を描くだろう。彼はこう言ったという「温情が失敗すれば武力がすべてを支配することになるのだ」。彼はその現実を心に刻み、魂を救い、赦免状をあいかわらず発行した。

しかし安全ではない。ある夜、ドミニコを殺そうと2人の者が待ち伏せしていたという。そこへ響いたのはドミニコの歌う明るい聖歌だった。さすがにそういう者を殺すのは気がひける。後日彼らは本人にバラして、殺されたらどうする気だったんだ!と言った。本人は「そのときは肢体を一つずつ切ってできるだけ殉教を長引かしてくれるようお願いしたでしょう」と答えた。

もちろん彼は聖母に教えてもらったというロザリオの祈りを毎日唱えていた。ロザリオの祈りは煉獄の死者にさえ届く。恐らくこの騒乱で死んだ者のためにも祈ったのだ。ある教会で、夜「主よ、あなたの民を憐れんでください。罪びと達はどうなるのでしょうか?」という彼の叫びが聞こえたという。

ひょっとするとその祈りは通じたのかもしれない。ドミニコの修道会はトゥールーズにも広がり、十字軍の災禍を憂えた教皇インノケンティウスは新たな改革をすることになる。そしてこの時代にもう一人の星が現れるのだ。

下はエル・グレコ作「聖ドミニコ」

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キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民

キリスト教なしに西洋史は読めないというほど深く痕跡を残しています。そういうキリスト教を念頭に置きながら、西洋史を読んでいこうと思います。もちろん批判的観点もおおいにアリ。 ローマ時代コンスタンティヌスから始まる長い物語、お楽しみいただければ幸いです。