1866年、20世紀を見通す小説が発表された、ドストエフスキーの「罪と罰」である。主人公ラスコーリニコフは、世の中の不条理に憤り、「エリートは、世の中のためになるなら社会道徳を踏み越えることができる」と思い、強欲金貸しのババアを殺害する。そのときから彼の懊悩が始まる。
ラスコーリニコフは確信犯である。殺人を犯した瞬間から、彼は既成秩序の外に出たキルケゴールの言う「単独者」となったのだ。もちろん外からは既成秩序の番人の警察が迫ってくる。そして内面でも、絶えず自分の殺人の正当化を反芻しなければならないのだ。
ラスコーリニコフの罪を警察は立証できなかったが、娼婦でありながらも純粋な心を持つソーニャに救われて自首し、シベリア送りにはソーニャも付き添う。ソーニャは、聖書に表れてマグダレーナに代表される「罪の女」といえる。まるでキルケゴールの「死に至る病」そのものである。
1866年4月4日、ドミートリー・カラコーゾフによる皇帝暗殺未遂事件が起きた。犯人は、労働者や農民が苦しむのは皇帝の責任であり、自分はそのために死ぬ、と書いた。まさにラスコーリニコフと同じである。近代化とロシアの体制の矛盾はそれから激しくなっていく。
キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民
キリスト教なしに西洋史は読めないというほど深く痕跡を残しています。そういうキリスト教を念頭に置きながら、西洋史を読んでいこうと思います。もちろん批判的観点もおおいにアリ。 ローマ時代コンスタンティヌスから始まる長い物語、お楽しみいただければ幸いです。
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