第1回十字軍19-タンクレードの若すぎる死

恐らく十字軍国家の最盛期は1110年からだろう。この年にノルウェー王シグルト1世がエルサレムを訪問したが、ボードワンはうまくシドン包囲戦に参戦させて、この都市を奪取している。彼はまさにプラグマティストで人を使うのがうまい。これでトリポリも制圧してパレスティナの海岸をほぼ制覇した。

ところがこの栄光のさなかに、1112年若武者のタンクレードが若干30代で亡くなるのである。正確にはわからないが3死因は疫病だと思われる。いつものように元気よく戦さに行こうとしていたらあっさり重病に。そして後継者に、叔父で正統な王ボエモンの息子を指名し、騎士ルッジェロにその間のつなぎ役に任命するのである。

彼はガリラヤ公とは言うもののアンティオキアの摂政として領土欲ではなく戦いに生きた。死後彼は騎士の鑑として伝説となり、ルネサンスにタッソーが悲劇的英雄として戯曲を書いて、モンテヴェルディがオペラにしている。

ボードワンは内政にも長けた男で、教皇代理ダインベルトの反対にもかかわらず、エルサレムにギリシア正教、東方正教、イスラムまで居住を許し、異教徒同士の結婚も許可。おかげで、イスラム商人、イタリア商人が活躍し、この街は世界都市となるのである。そういう中で1118年ボードワンも亡くなるのだ。

下はプッサンの「タンクレードとアンティオキア王女エルミニア」

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キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民

キリスト教なしに西洋史は読めないというほど深く痕跡を残しています。そういうキリスト教を念頭に置きながら、西洋史を読んでいこうと思います。もちろん批判的観点もおおいにアリ。 ローマ時代コンスタンティヌスから始まる長い物語、お楽しみいただければ幸いです。