1845年、ワグナーの代表作の一つ「タンホイザー」がドレスデンで初演されたが最初は不評だった。ワグナーは、従来様式のオペラ「リエンツィ」を成功させて宮廷歌劇団の指揮者となったが、次の「さまよえるオランダ人」も不評だった。他の作曲者が台本を脚本家に依頼するのに対して彼は自分でつくった。
「タンホイザー」は、ドイツ中世の伝説を組み合わせて自作したものである。主人公は、エロス的ヴェヌスとアガペ的エリザベートの間を逡巡し、最後にエリザベートが犠牲になることで救われる。これは魅力的だが浮気性の妻ミンナに苦しんで、他の女性に浮気していた自分の体験が影響していると言われる。
統一国家のないドイツ人は、自分のアイデンティティを中世の騎士伝説に求めていた。表面では真面目で謹厳なドイツ人は、実は裏に欲望を隠している。自国主義だが、実はフランスやイタリアに憧れる。ドイツ人の二面性をこのオペラは明かしたのだが、観衆には何のことやらわからなかった。
タンホイザーの人気が出たのは、ラストをわかりやすくして、大合唱で一気に盛り上げるよう改訂してからである。哲学的でわかりにくいストーリーを大音響で陶酔に導き、高尚感を持たせる。その後のワグナーの方法はこういう困難の中でできあがったが、それ自体またドイツ的である。
キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民
キリスト教なしに西洋史は読めないというほど深く痕跡を残しています。そういうキリスト教を念頭に置きながら、西洋史を読んでいこうと思います。もちろん批判的観点もおおいにアリ。 ローマ時代コンスタンティヌスから始まる長い物語、お楽しみいただければ幸いです。
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