現代思想6-啓蒙の弁証法・逆説

世界大戦は「民主主義国」が勝利したために、民主主義の優位性が示されたものと解釈された。しかしこれに対してヨーロッパ近代の啓蒙主義の問題だと提起したのが1947年に上梓されたアドルノとフォルクスハイマーの「啓蒙の弁証法」である。実際の第一次世界大戦までの経緯を見れば英仏も無実とはいかない。

彼らはホメロスの「オデュッセイア」を引用して、啓蒙の時代を自然的神話的世界観に対する理性の勝利と見る。しかしそれは人間の内的自然を抑圧して社会をつくり出し、結果的に暴力を誘発する故郷へ帰ったオデッセイがやったのは虐殺だった。

啓蒙主義で人間は自由になったが、自然的欲求を殺して働いてもちっとも楽にならない。不合理な差別不平等が蔓延してそれが解決できず、第一次世界大戦前はストレスが爆発寸前になっていた。他者、他国を非難しあって結局それは戦争という形で噴出したというわけである。

彼らは啓蒙からの脱却を自然との融和に求める、現代でいうとエコロジーというわけだろう。確かに自然を破壊して人間の豊かさを追求するのは限界を迎えている。そうはいうものの、自然を満喫できるのは一握りの豊かな人々だけで、大半の人間は日々の生活に汲々としている。こうした現状の中で今日の時代でも差別不平等、非難が蔓延して騒乱や戦争が起こっている。

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キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民

キリスト教なしに西洋史は読めないというほど深く痕跡を残しています。そういうキリスト教を念頭に置きながら、西洋史を読んでいこうと思います。もちろん批判的観点もおおいにアリ。 ローマ時代コンスタンティヌスから始まる長い物語、お楽しみいただければ幸いです。