現代芸術4-ラヴェルの夢と現実

1907年ドビュッシーと同じく印象派の作曲家モーリス・ラヴェル作曲のバレエ「ダフニスとクロエ」が上演された。この物語は古代ギリシャの物語が元になっており、理想郷アルカディアの物語である。これはドビュッシーの「牧神の午後」と同じく人間の元祖へ回帰したいという願望を表している。

この美しい管弦楽をつくったラヴェルは「水の戯れ」や「夜のガスパール」などの印象派的音楽をつくっている。しかし当時の人間どもは理想郷とはかけ離れていた。1914年に第一次世界大戦が始まり、フランスではなんとドイツ音楽は禁止された。ドビュッシーも心を痛め悲痛な「英雄の子守歌」を作曲する。

ラヴェルはというと兵役に志願するのだ、しかし40歳で身体も弱い彼は、救急車や輸送車の運転兵になるが結局身体を壊して除隊になった。戦争の現実はラヴェルの心を傷つけ、戦争中に作った合唱曲「楽園の三羽の美しい鳥」は、最後に「ああ私の心臓が凍り付いていくのを感じる」と歌う。

そして17年には名作組曲「クープランの墓」を作曲する。この曲は17世紀のフランスのバロック時代の作曲家だが、実はその6つの曲は、戦争で亡くなった友人6人に捧げられている。墓というのはこの戦争で亡くなった人達への追悼なのである。そして戦後彼は3年間ほとんど何も書けなかった。

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キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民

キリスト教なしに西洋史は読めないというほど深く痕跡を残しています。そういうキリスト教を念頭に置きながら、西洋史を読んでいこうと思います。もちろん批判的観点もおおいにアリ。 ローマ時代コンスタンティヌスから始まる長い物語、お楽しみいただければ幸いです。