ロマン派以後4-逆説の聖書「サロメ」

1894年オスカー・ワイルドの「サロメ」がフランスで出版された。聖書におけるサロメは、母の言う通り父の前でダンスを踊って「洗礼者ヨハネの首が欲しい」と言った少女である。しかしこのテーマは画家の関心をひいたらしく、大物画家はけっこう描いている。そして最大の影響はギュスターヴ・モローの絵だった。

ユイスマンスはこのサロメを「情欲の化身」とか「不滅の病的興奮状態の女神」と言っている。ワイルドはそれにも影響された。そしてワイルドの戯曲では、恋するもいっこうに応えてくれないヨハネに対して、それなら殺して自分のものにしてしまうという女性に描いてしまうのだ。

この上演はサラ・ベルナールを主役として企画されたが、本国イギリスでは許可されず、初演は96年のパリとなった。ワイルドはヴィクトリア朝のタテマエの道徳性を嫌い、人間のホンネの姿をサロメに託し、権威である聖書を逆転させた。前にも書いたが、当時オリエントには原初の人間が居ると勝手に思われていた。

「この劇は音楽を必要としている」と言った者がいる。当時の前衛作曲家であったリヒャルトシュトラウスである。彼はワグナーの官能的な音楽を発展させ、オリエント的な音楽も取り入れてスペクタルなオペラを創った。このオペラによって新しい「サロメ」が誕生し、その物語は聖書を越えてバレエなどへも増殖してゆく。

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キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民

キリスト教なしに西洋史は読めないというほど深く痕跡を残しています。そういうキリスト教を念頭に置きながら、西洋史を読んでいこうと思います。もちろん批判的観点もおおいにアリ。 ローマ時代コンスタンティヌスから始まる長い物語、お楽しみいただければ幸いです。