この「コンスタンティヌスの寄進状」たるや、実にすごいもので、コンスタンティヌス大帝が、シルウェステル一世に癩病を治してもらったお礼として、ローマ司教に西方の全権限を与えるという文書である。そしてシルウェステル1世に帝冠を一旦与えたが、教皇からコンスタンティヌスにまた与えたという。
この文書によって、ローマ教皇領どころか、全ヨーロッパが教皇のものであるという主張がその後まかり通ることとなる。そしてこの文書を基に、西方は東ローマから独立し、ヴァチカンが西方皇帝を選べるようになった。そしてその皇帝権力は、ローマ教皇から委託されたものである。
まったくこの文書によって、教皇が世俗帝権に優先するというヨーロッパ中世独自のシステムができることになった。いわば西方独立宣言文書であるが、それはニセ文書。しかしアメリカ独立宣言で哲学者のデリダは、最初の権原というもの厳密につきつめるとはっきりしない、と述べている通り。
ともかくこの文書は本物としてまかり通り、15世紀の人文学者ロレンツォ・ヴァッラが、コンスタンティヌスの時代の文法とは違うということを研究結果で疑問を呈した論文を発表して論議が起こることとなった。それはまた、教皇権というものが揺らいできた時代の産物でもある。
下はラファエロの間の「コンスタンティヌスの寄進状」
キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民
キリスト教なしに西洋史は読めないというほど深く痕跡を残しています。そういうキリスト教を念頭に置きながら、西洋史を読んでいこうと思います。もちろん批判的観点もおおいにアリ。 ローマ時代コンスタンティヌスから始まる長い物語、お楽しみいただければ幸いです。
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