背教者ユリアヌス6-ダフネ神殿炎上

さらにユリアヌスは実力行使。362年頃からエルサレムのユダヤ教神殿の再建を開始した。キリスト教徒は今度こそびっくりしゃっくりである。当時の解釈によれば、ユダヤ神殿の崩壊は、神がユダヤ人を見離した証であった。そしてヘレナによって聖墳墓教会が建てられ、エルサレムはキリスト教の聖地となった。

ユリアヌスの考えでは、正当なユダヤ人の民族神はユダヤ教であり、ユダヤの神を全世界に拡張するキリスト教こそ異端だった。さらにキリスト教の中心都市アンティオキアの近くのダフネのアポロン神殿を再建しようとした。それに邪魔なキリスト教殉教者の墓をどけてである。ところがこの神殿が完成直前に火災が発生し燃え落ちる。同時にユダヤ教神殿も火災か何かで再建不能となってしまった。

キリスト教徒は「神の罰」と広め、皇帝にも下ると予言した。ユリアヌスはキリスト教徒の仕業と考え、アンティオキアの教会を閉鎖した。しかしその他の皇帝の政策もうまくいかなかった。ギリシア哲学の消化に熱心なのはキリスト教徒の方であった。ギリシア・ローマの神官は、日本の神社のようなもので、教義解釈など考えず、聖職も地元の氏子がやっているだけで、迫害の中で培ったキリスト教の組織におよびもつかなかった。

貧者対策にしても、官僚には思いもよらぬことであった。イエスキリストの教えだけが、困窮している者を助ける者こそ救われるという価値逆転を行って「天の国に富を積む」ために奨励したのである。仕事だけで福祉事業はできないことは現代でもいえることだ。

下はアンティオキア博物館のアポロンとダフネのモザイク

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キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民

キリスト教なしに西洋史は読めないというほど深く痕跡を残しています。そういうキリスト教を念頭に置きながら、西洋史を読んでいこうと思います。もちろん批判的観点もおおいにアリ。 ローマ時代コンスタンティヌスから始まる長い物語、お楽しみいただければ幸いです。